あれから、数年が経った。
彼は本当に海外へ行ったらしく、あれ以来姿をまったく見ない。
そして私は彼のことを忘れて、新しい恋をしようとした。
が、無理だった。
何人かの男の人と付き合ったが、どれも長く続かなかった。
なぜなら、私の心には、まだ彼がいるから。
諦めようとしていたが、実際は無理だった。
家への道の途中、肌に冷たいものが当たる。
上を見上げると、白いものが降ってきた。

「…あぁ、雪か」

もう、雪が振る季節なのか。
あれから、数年も経った。
彼は、元気でやっているだろうか。
私とは違って、ちゃんと恋をしているだろうか。
もう会うことはないであろう彼のことを思うと胸が痛い。
でも、考えずにはいられない。
そして、いつも彼のことを考えるとき、必ず思いだすことがある。
中学の卒業式。
彼の、告白。
私に思いを伝え、行ってしまった彼。
どうして私は彼に自分も好きだ、と言えなかったのだろう。
今でもまだ、後悔している。
どうしようもないのに。
時に、人は後悔した後に何をするかだ、という。
それなら私は、何をすればよいのだろうか。

「…早く帰ろ」

自分の思考を打ち切るように言う。
数年間考えてきた問題の答えが今更でるわけない。
冷たい手をポケットへ入れ、
足を速めて、家へと向かう。
今日の晩御飯のことや、明日の予定。
そんなことで頭をいっぱいにしながら歩いた。
この後、何が起こるかなんて知らないままで。

**********

私は自分の家の前で足を止めてしまった。
驚きのあまりに、多分口が半開きだったかもしれない。
なぜならそこに、彼がいたから。
ここにいるはずのない彼。
数年間、姿を見せなかった彼。
沢田 綱吉が。

「…」
「えぇと…久しぶり、ちゃん」

ちょっと低くなった声。
見慣れないスーツに身を包んでいる姿。
なぜか、とても大人びて見える。
スーツを着こなしていた彼に、
数年間の変化が見えた気がした。

「綱吉くん…だよね?」
「良かった、忘れられてなくて」
「忘れるはずないよ、学校でパンツ一丁になって…」
「!!そ、それは言わないで!」

彼は慌てて私の言葉を止める。
そんな姿にちょっと安心をおぼえて、私は笑った。
だって、その姿はまるで数年前の彼。
変わっていても彼である証拠のように思えた。

「最初、変質者がいるかと思ったよ」
「えぇ!?それは酷くない!?」
「だって、普通人の家の前でぼーっとしないでしょ」
「し、してないよ…」

そんな会話をして、笑いあう。
それから私は彼を家へ招いた。
独特の彼の髪につもっている雪をみて
一体いつから傘を持たずに立っていたのか疑問に思う。
彼にタオルを渡してから、温かい紅茶をだしてテーブルに座る。
おいしそうに紅茶を飲む様は、とても優雅だった。

「この紅茶、おいしいね」
「本当?ありがとう。私もこれ好きなんだ」
「へぇ、そうなんだ」

ほんわかとした笑顔。
だが、急に彼の笑顔が消える。
そのかわり出てきたのは、なんだか真剣な表情。
思わず、身構えてしまった。

「ねぇ、ちゃん」
「うん?どうしたの?」
「もし僕が、マフィアのボスだって言ったらどう思う?」
「え…」

私は思わず声を漏らしてしまう。
マフィアの、ボス。
中学の時の彼からは思いもつかないその言葉。
正直、今の彼の格好を見てもスーツを着ているだけで、
マフィア、だなんてピンとこない。
けれど、きっと彼の様子からみて、嘘ではないだろう。

「…急に、なんで?」
「先に答えてくれないかな…?」

お願い、と言って彼はじっと私を見てくる。
どう思うって、そんなの簡単なのに。

「そりゃ、すごい怖いよ。マフィアって、恐ろしいイメージだし」
「…うん、そうだよね」
「でもさ、綱吉君は綱吉君じゃない。
 綱吉君には恐怖は感じないよ」

そう言って、軽く微笑む。
もし、彼の言っていることが本当なら。
彼はもう私の知っている彼ではないかもしれない。
けど、さっきの会話でわかる。
彼は変わっているかもしれないけれど、あの時の彼のままだ。
私の好きだったころの、彼。

「…実はね、ちゃん。僕がこういう職業に就くってことは
 中学の時からわかってたんだ。」
「…うん」
「そしたらさ、僕は周りの人を巻き込むこと、
 危険にさらすことが、すごく怖かったんだ」

今でもそうだけど、と彼は付け足し、続けた。

「それで、僕は臆病で、どうしてもできなかった」
「…何を?」
「…自分の好きな人に、本当を言うこと」
「本当って…」
「一緒に、海外、来てほしいって」

心拍数が上がるような感覚。
胸が、どきどきする。
彼が何を言いたいのかわかるようで、わからない。

「もちろん、獄寺君や山本も巻き込みたくなかった。
 でも、やっぱり好きな人ってのは特別で、言えなかった」

彼が言っている好きな人は、誰?
私は、自惚れても、いいの?

「そしたら、あとから後悔だけが残ったんだ。
ずっと、それだけがあった。」

――だから、やり直しに来た。
そう言い、彼は席を立った。
そしてゆっくりと私の隣へ歩いてくる。
片膝立ちになり、私の目を見て言った。
スローモーションに見えたのは、私の気のせいだろうか。

「イタリアに一緒に来てくれないかな」

人は、後悔した後に、何をするかだ。
それなら、私は何をしたらいいのか。
その答えを今、見つけた気がした。

「…うん。喜んで」

AFTER REGRET