『もしもし、?ちょっといいか?』
『え、山本?どうしたの?』
『実は、今日の数学の課題。全くわかんねぇんだけど…』
『え?どれ?』
『うちまで来てくんねぇか?けっこう量あるんだよな』
『はいはい、わかったよ。今から行くから、待ってね』
『いや、迎えいくよ。一応外暗いしさ』
『りょーかい。それじゃ、また後で』
『おう』
ガチャリと受話器を置く。
短い間だったが、廊下は寒く、体が震えた。
そういえば、冬真っ盛りだもんな…。
あと、もうすぐ山本がくるし髪でも梳いておこうか。
そんなことを考えていると、居間から母の声が飛んできた。
「ー?武君、なんだってー?」
「勉強教えてだってさ。今から山本の家行ってくるから」
「早めに帰ってきなさいよー」
母の間延びした声が途切れる。
私がこの時間に山本の家に行っても、なんとも言われない。
そりゃ、そうだ。なぜなら、私、と山本武は幼馴染だ。
小さい頃なんか、お互いの家に泊まったりしていた事もある。
「武君と結婚するー」なんて言った記憶もある。
そして、そのあとは、必ず彼に抱きつく。
私なりの、照れ隠しだった。
何かあれば、顔を隠すために、彼に抱きついていた。
山本はそんな私の頭を優しくなでたり、
自分も私の背中に手を回したりもしていた。
…あの頃を、彼はまだ、覚えているのだろうか。
昔のことを懐かしんでいるその時、
母と似たような間延びしたピンポンがなった。
は急いで上着をつかみ、玄関のドアを開ける。
そこには、より背の高い山本がいつもの笑顔でいた。
「よ。悪いな、こんな時間に」
「別に、大丈夫だよ。」
「そっか。んじゃ、行くか」
玄関のドアを閉め、山本の家へ向かう。
当たり前だが廊下と外では、寒さが違った。
手袋をしていない手は冷たくて、今にも痛くなりそうだ。
手袋を持ってこなかったことに若干後悔しながら、
手をこすり合わせ、暖かさを求める。
そんなに気付いたのか、山本が声をかける。
「寒いのか?手袋は?」
「家に忘れっちゃった。今から取りに帰るのも面倒だし、我慢するよ」
「普通忘れるか?ほら、手貸してみろよ」
「…?」
素直に手を差し出すと、山本の男らしい手に掴まれそのまま彼のポケットへと運ばれた。
野球をしている彼らしい、ごつごつした手に少し緊張しながらも
ポケットの暖かたさにほうっと息をつく。
「あったかい…」
「だろ?」
「山本が子供だからかな…」
「あ、ひっでぇ。だってまだ子供だろー」
「なんでよ?」
「だって、身長低いし」
「うわ、それ言うー?山本だってひどい」
「お互い様だろ?」
そんな他愛もない会話でけらけらと笑う。
私は山本とする、こういう会話が好きだった。
とても、心が軽くなる。
なんでかは、わからないけど…。
ふと、意識を前に持っていくと、目の前を通る白いもの。
雪だった。
「見て!初雪だよ!」
「ほんとだ。きれーだな」
「やっと降ったってかんじするよね」
「…なぁ、。って、雰囲気とか重視する派か?」
「え、何よ、急に?」
「いいからいいから」
声は軽いのに、顔にはいつもの笑顔がなかった。
滅多にない山本の真剣な顔に、は素直に返事をする。
ポケットで、繋がれたままの手が少し暑く感じた。
「そりゃ、雰囲気ないよりあるほうが、何事もいいんじゃない?」
「…そっか」
「ねぇ、急に何だったの?」
「…実はな、家出るとき、お前も男みせろって親父に言われたのな」
そこで一旦言葉を切る山本。
何かを決意したような顔をしてから、山本は言った。
「なぁ、覚えてるか。子供ん時のの言葉」
「私、なんか言ったっけ?」
「『武君と結婚するー』って、言ってたよな」
「わ、山本、覚えたの?」
「もちろん。めちゃくちゃ嬉しかったんだぜ?
それでさ。俺は、それを実現したいわけなんだよな」
「…それって、どういうこと?」
「…ってさ、やっぱり、鈍いよな」
「ちょ、そんなことないって」
「それなら、俺の言葉の意味も分かれよ」
ちょっと厳しい口調で彼は言い放つ。
少し驚き、前にむけていた顔を山本に戻すと、
そこにはやはり、いつになく真剣な顔。
彼はゆっくりと立ち止まり、と向かい合う。
「俺、から、まだ聞いてない言葉がある」
「…それは、何?」
「一応、結婚するためには必要なことかな。
本当は最初にから聞きたいけど、無理そうだし、俺から言うな」
一瞬の沈黙。にはなぜか長く感じた。
「俺、の事が、好きだ」
時間が、止まる。
自分でもかなり驚いているのがわかった。
目が少しずつ大きくなっていく。
繋いでいる手を湿気が覆う。
雪がゆっくりと落ちてゆく。
体が、軽く硬直する。
「もちろん、あれは子供の頃の話だ。
でも、やっぱり、俺はお前が好きでさ、言いたかったんだ」
「…でも、山本にはもっといい子が…」
「俺が好きなのは、だよ」
「…!!」
返事はいつでも、なんでもいいよ。待ってるから。
あ、気まずかったら、今日はもう帰るか?
もちろん送るけどな。
そんなことを言いながら、山本は歩き始める。
私はあえて、動かなかった。
「…?やっぱ、今日は…っ!」
私の答えは、これだった。
抱きしめた彼の体は、寒さで少し冷たく
あの頃より、すこしがっちりしていた。
My embrace(私の抱擁。それは、)
My embrace(私の抱擁。それは、)
にこっとタウンのサークルでの企画用
Aコースさま よりお借りしました